私の中での監督視点マンガの先駆けは「やったろうじゃん」だった

今ではジャイアントキリングを始めとする監督視点のスポーツ漫画が数多く出てきました。野球漫画で言えば主人公はバリバリのスラッガーだったり天才ピッチャーがゴリゴリ活躍する展開が多いように思いますが、それはもう過去の産物なのかもしれません。

監督視点の面白い部分は「実質的な戦力差を作戦でひっくり返す」という部分です。貧打にも関わらずリーグ優勝を遂げた某俺流野球や、何度もチームを優勝・日本一に導いたID野球はマネーゲームで星を買うというスタイルとは対極にあるような気がします。

私にとっての監督視点マンガの先駆けは原秀則先生が描く「やったろうじゃん」という野球漫画でした。非常に入り組んだ話で、甲子園を目指すうえで降りかかってくるノイズなども多いのでぜひ大人の方に読んで欲しい野球漫画です。そこで今回は私にとっての監督視点マンガの先駆け「やったろうじゃん(全19巻)」を紹介したいと思います。

著:原秀則
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目次

やったろうじゃんはどんな物語?

創部3年で地区大会ベスト8の朝霧高校野球部に元甲子園優勝投手の喜多条が監督として迎え入れられ、様々な困難を乗り越えながら甲子園出場を目指すという物語です。必殺技みたいなモノが一切ないし良くも悪くも派手な描写がほとんどないので、いわゆる大人向けの野球漫画と言えます。

喜多条が監督を務めることはナインからすれば一応の目標として掲げていた甲子園を本気で目指すキッカケになり、喜多条からすれば自身が引き起こしてしまった暴力事件によって一度は諦めた甲子園を再び目指すキッカケとなります。独自の理論と鋭い観察眼を持っている喜多条が展開する野球論や、それについて行こうとするナインたちの心情の変化などが大きな見所です。

やったろうじゃんを楽しむポイント

他人を蹴落としてでも這い上がれ

コミックス1巻

本来の高校野球の強豪校であればこういうスタイルの学校が多いんじゃないかとは思いますが、いわゆる「練習を頑張ってるから試合で使ってみるか」というようなことは一切しないというスタイルです。ドライな感じもしますが実力主義でわかりやすいと言えばわかりやすくもあり、これまでナァナァ野球をしていた部員たちにとってはお互いの競争心を煽る目的があったようにも思えます。

監督が代わって新生チームになった時にコンバートをされた選手もたくさん出てきたので、それぞれの部員がライバルとのポジション争いに闘志を燃やしている様子がたまりません。「他人を蹴落としてでも這い上がれ」というスタンスの指導でグイグイ部員たちを引っ張っていくところに注目してみてください。

基本的に「自分たちで考えろ」というスタンス

コミックス2巻

一から十まで教えるということはせず、あくまで成長するにはどうしたらいいかについては「自分たちで考えろ」というスタイルです。練習中にランニングばっかりでボールが触らせてもらえないという不満を爆発させた部員たちに「俺が見ている間はランニングだけどボールを触りたきゃ触れ」と言い放ちます。喜多条もまた「野球は頭のスポーツ」と考えている部分もあるようで、その本質は「自分たちのことは自分たちでやれ」という親心にも似た感情のようです。

確かに言われたことだけをやってて成果が上がるなんて甘い世界じゃないでしょうし、これは高校野球に限らず何でもそうですよね。学校の授業だけで成績が伸びないから塾に通う人がいるんだろうし。普段の練習が終わった後でいくらでもバッティングとかやりゃーいいじゃんって言うことでしょう。そんなこと言われたら思わず「やったろうじゃん!」って言いたくなるのでは?

バッティング<守備

コミックス2巻

監督就任直後は主にランニングなどの基礎体力を養う練習をし、ボールを持ったかと思えばノックのみという非常に極端な野球をします。しかしながら喜多条なりの考えがしっかりあって、その説明を聞くと1つ1つの考えに筋が通っているように感じました。

素人目線で考えると「バッティング練習もしなきゃ勝てねーじゃん!」って思うんですけど、それに関しても喜多条は「バッティングをやっちゃいけないとは一言も言ってない」んですよね。ここに部員たちが気付くかどうかという部分も見所の1つです。

多くの野球漫画は「点をやらないピッチング」とか「相手を打ち負かすバッティング」なんかにスポットが当てられていることが多いものの、やったろうじゃんでは守備に重きが置かれています。ここを地味と感じちゃう人もいるかもしれませんが、私は基本に忠実な本格派の野球漫画だと思いました。

バントはしない

コミックス4巻

初めて本作を読んだ当時めちゃくちゃ驚いたのが「送りバントをしない」という方針でした。今やプロの世界でも投手戦になると普通に送りバントをするし、高校野球なんて接戦じゃなくたって送りバントの雨あられじゃないですか?ここまで守備を鍛えたりして堅い野球をするイメージなのにまさか送りバントをしないとは・・・。

「高校野球は波の部分が大きい」としたうえで監督の指示で嫌々やらされる送りバントがもたらす士気への影響と、好きなようにバットを振ってチャンスを潰してしまう確率など、ありとあらゆる可能性をしっかりと天秤に掛けて判断しているようです。ちなみに物語の後半になると送りバントのサインを出したりもするんですが、この辺はご愛敬ということで。

数々の困難が待ち受ける展開

コミックス1巻

自身も甲子園に行き、しかも優勝投手である喜多条ですが、多くを語らない性格であるがゆえに部員との衝突も度々起こります。それでいて「やる気のないやつは必要ない!」「辞めたかったら辞めろ!」という指導方針のため、みるみる部員数が減っていきます。衝突を繰り返す度に少しずつ部員たちとの絆が深まっていく様子は必見の価値ありです。

そして喜多条には甲子園に行けなかったときの責任も重くのしかかります。ここに関しては野球部の存続のようなカタチで責任を取らされるという、スポーツ漫画にとっていわばありきたりなシーンの1つなのですが春に就任して夏の甲子園に出られなければ解任という最高難度のミッションのようにも思えます。

実際にどんな決着を迎えるのかは実際のコミックスで確認していただくとして、喜多条の進退のことなんか忘れてしまうほど熱い夏が描かれていると言っていいでしょう。

最後に

全19巻に渡って構成されている「やったろうじゃん」ですが、最初はめちゃくちゃ面白いマンガだと思いました。個人的な事を言うと就任当初の3年生が引退してしまってからは失速してしまったような感が否めないのですが、私にとっての「監督視点のマンガ」と言えばいつも本作が脳裏をよぎります。

監督と選手が一丸となって強豪校と戦っていく姿は必見です。興味のある人はぜひ読んでみてください。

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