野球漫画だけじゃない!あだち充の水泳漫画「ラフ」が面白い

あだち充先生と言えば余韻を残すフィナーレへの導き方などが非常に秀逸な漫画家さんです。これまで描いてきた作品は大ヒットに次ぐ大ヒットを記録しており、個人的には「売れてない時期ないよね?」と思うくらい一気に開花した漫画家さんというイメージを持っています。

なんと言っても代表作は「タッチ」「H2」そして「MIX」など、主に野球漫画を描いているイメージが強いあだち充先生ですが、実は野球以外を題材にしている名作も多いんです。今回ご紹介したいのは「ラフ」という水泳漫画になります。水泳や学校生活を通しての青春ラブストーリーが堪らなく素敵なんですよね。時折出てくる野球部の描写も「さすが十八番!」と思えるくらいに仕上がっているんです。ハッキリ言ってめちゃくちゃ面白いっす。

そこで今回はあだち充先生が描いた水泳漫画「ラフ(全12巻)」の魅力について書いていきたいと思います。内容については少しネタバレしちゃってますが、肝心な結末に関してのネタバレはありません。

著:あだち充
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目次

ラフ 漫画概要

あらすじ

埼玉県の私立栄泉高校水泳部に所属する大和圭介と二ノ宮亜美。2人の実家はともに和菓子屋で、祖父の代からライバル同士であった。最初は仲が良くない2人だったが、様々な出来事を経て、次第に惹かれ合っていく。亜美が兄のように慕う日本記録保持者の仲西弘樹と、圭介と亜美の三角関係は。 あだち充青春ラブストーリー

ラフ (漫画) – Wikipedia

個人的なラフの所感

「なんで最初、あんなに仲悪いの!?」ってくらいの2人が徐々に仲良くなっていきーの、最終的に「結ばれるの?結ばれないの?」みたいな話です。正直言うと主人公の大和とヒロインの二ノ宮の初期設定は雑に感じました(でもそれがいいのかな)。

徐々に惹かれ合う両者の間には様々な恋敵が出てきたりして物語を大いに盛り上げてくれます。競泳と飛び込みにスポットが当たっているので「それぞれに精通してないと楽しめないんじゃないか?」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、まったくもってそんなことはありません。

なにより注目すべきは「主人公の水泳選手としての結果」と「恋の行方」ですね。そこに辿り着くまでの友情や様々な葛藤にも抜群の見応えがあると言っていいでしょう。割と古い作品ですが今の若い世代の方々にも是非読んで欲しいと思えるような作品です。

ほとばしるあだち充テイスト

あだち先生ならではのユーモア溢れる表現

コミックス1巻

他のマンガでもちょっとギャグの要素やお笑いのテイストを盛り込んでくるような作風のマンガであれば「作者が作中に登場する」って場面は結構見るじゃないですか?たまにキャラクター人気投票でもやろうもんなら、20位くらいに数十票獲得した作者がいたりなんかして。

あだち充作品においてはキャラの人気投票をしたときに「作者が上位に食い込むんじゃないか」と思えるくらい多々登場します。これこそが「あだち充テイストの真骨頂」だと思うんですけど、所々にそのユーモアが練り込まれているんです。たとえば上記画像のシーン。向き合っている険しい顔の2人の様子から察するにかなりシリアスなシーンへの発展が予想されるわけですが、飛び込みのタイミングで「話がある」と言っているあたりに遊び心を感じませんか?

コミックス1巻

しかもちゃんとツッコミまでやり切ってます。普通のマンガであれば最初から飛び込ませたりしないところを、あえて回り道している感…こういう見せ方をするのはあだち先生以外には居ないんじゃないでしょうかね。すごく「秀逸だなぁ」と思う場面が本当に多いんですよ。

所々で登場する他の作品のCMや話の終わりに「ページがない」というオチの付け方、漫画家を持ち上げる表現など、どれも他のマンガでは見られないようなユーモアのオンパレード。長期に渡って連載しているとどうしても出てしまいがちな「矛盾を訂正するやり方」にすら、とてつもないユーモアを感じるくらいです。

「第三者からの意見」を効果的に使う

コミックス2巻

面と向かって褒められるよりも間接的に第三者から褒められた方が嬉しい場面ってありませんか?いつも意地悪をしてくる男子がいて、女友達から「あんたのことが好きなんだって」って聞かされる的な。そういう見せ方が非常に上手いです。

スポーツを題材にしたマンガなら影の努力が光るわけですけど、それを直接描くよりも「第三者を通じて読者に魅せる」って言うんでしょうかね。それを知らず知らずのうちに刷り込まれていくので、恋愛においては「気が付いたら好きだった」という衝動にも似た空気を演出しています。

あだち先生のマンガでは多くの作品で用いられている手法ですが、本作品の表現が1番好きかもしれません。水泳の面でも恋愛の面でも巧みに表現されていると言っていいでしょう。

名言に次ぐ名言

コミックス4巻

あだち充作品には変に飾ろうとしていない名言が数多く登場します。そのほとんどが難しい言葉じゃなくて、どれもが真っ直ぐ心に突き刺さるものばかりです。なんか深みがあるというか、考察しても考察し足りないくらいの背景がありそうというか…。

またそれを出してくるタイミングも上手いんですよ。「そいつにコレを言わせるかね!」みたいな感じ。さすがとしか言いようがありません。

「あだち充と言えば…」の野球のシーンも登場!

コミックス3巻

本作は水泳漫画ですが野球部で活躍する同級生の姿も描かれていて、そのシーンが少ないながらも響くんです。「うわー、やっぱすげえなぁ」と思わされるというか捨てる部分がないというか。「これで一作品描けるじゃん!」と思わずにはいられません。

上記シーンでは「才能のある選手が血の滲むような努力を繰り返し、昼夜問わずバットを振り続けてきた結果、試合でバットを振らせてもらえなかった」という、いつぞやの松井秀喜さんを思わせるようなシーンが描かれています。しかもそれを言い訳にしない選手と、それを嘆くヒロインの涙のオマケ付きです。

秀逸すぎる前フリ

コミックス8巻

基本的に前フリがメチャクチャ上手くて読んでいて惚れ惚れするくらいです。上記画像のシーンでは3年生たちが最後の大会を前に写真撮影をしています。「こいつは絶対プロになる!」と言わんばかりの雰囲気ですが、言ったら「本作においては脇役」なわけです。

この男、名前を緒方と言いまして…。ヒロインの二ノ宮と同じ中学時代を経てこの場にいるのですが、恋愛の面においても青春という面においても野球を通じて良い味を出してくれる登場人物の1人です。多くの感動するシーンを生み出す緒方ですが、悪く言ってしまうと「しょせん脇役」なんですよね。ただ「名作に名脇役あり!」とはよく言ったもので、私はその意味を本作から教わったような気がします。

コミックス8巻

間にちょっとシリアスなシーンを挟みつつ、少しばかりの時間を置いてから再度「写真のくだり」を持ってくるんですよ。そして「お前は俺の自慢話になるよ」みたいなことを主人公に言うんです。これは私にとって本作の中でも1位・2位を争うくらい好きなシーンで、何度見ても鳥肌が立ってしまいます。本作にはこのような前フリが本当に数多く登場します。

こういうのって「いかに読者が覚えているギリギリのラインで再登場させるか」が重要だと思うんですけど、あだち先生はとにかく手数が多い!読み進めていくと「すべてが前フリに見えてくる」くらいの感じです。これはもう良い意味でお手上げ。読んだことがある人ならわかると思いますが、大和の親父さんが初めて登場するシーン。あの前フリのエッジはエグいと思います。これから読むという人はぜひ注目して読んでみてください。

恋の行方

 コミックス9巻

最初は「人殺し」なんて敵意むき出しだった子が、気付いたら「…それってどういう意味?」と言いたくなるようなジャブを打ってきたりして、心の移り変わりみたいなものが滑らかすぎて汲めません。もう完全に「気付いたら好きになっていた」パターンです。

読者からすると「最初にメチャクチャ仲が悪かった」という印象が強すぎて、その後のコツコツ積み上げられてきた愛情みたいなもんが馴染みすぎててわからないんですよね。主に「これがキッカケで…」という出来事がなく、本当に偶然に偶然が相次いでこうなったというか、本当に人の縁って不思議だなぁって思います。

コミックス11巻

校内のマラソン大会で去年の1位と2位が不在の中「1番人気でほぼ決まりと思われるガチガチのレースで、本命以外の賭けを吹っ掛けるヒロイン」って絵図に思わずキュンキュンしまくりだった私。「どんだけ信頼してんの?」とか思いません?

上の方でも書きましたが、こういう「本人不在で行われる賞賛選手権」みたいなのが堪らなく好きなんですよね。本人を目の前にするとどうしても遠慮とか気遣いがありそうですけど、こうやって陰で言ってることって本音だったりしますから。

最後に

コミックス12巻

コミックス全12巻(ワイド版なら全6巻)に渡ってお送りされる青春ラブストーリーの結末は…まぁ物語の中盤くらいで「どうせこうなってこうなってこうなるんでしょ?」という予想はつくと思いますが、恐らくその通りに進むと思います。問題は「その描き方」です。

スポーツ漫画だと「最後に勝つのか、それとも負けるのか」って結構大きい部分ですよね。恋愛漫画においても一緒です。「最後に結ばれるのか、それともフラれてしまうのか」は物語のこれまでの出来を左右するくらいの大きな分岐点だと言っていいでしょう。

しかし「最後はめでたしめでたしで終わる」ばかりの展開は、今時『月9』くらいじゃないでしょうか?逆にあまり見ないような気もするんですよね。まして、あのタッチやH2のフィナーレを見ていたら尚更です。結末、過程、どれもが完璧に着地した名作だと思います。まだ読んだことがないという人はぜひ読んでみてください。

著:あだち充
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